コロナの影響を受けた企業が社員の雇用を守るため、人材を必要としている企業に在籍出向する「雇用シェアプロジェクト」。トラストバンクもコロナ禍で数名の方を受け入れ、活躍していただきました。
その1人が、ecbo株式会社(東京・渋谷)でPR・コミュニティマネージャーを担当していた立崎衣織さん。
ecboは観光客など「荷物を預けたい人」と「荷物を預かるスペースをもつお店」をつなぐシェアリングサービス「ecbo cloak(エクボクローク)」を運営。コロナ禍で訪日客の需要が厳しいことからサービスを一時停止することになり、「雇用シェア」を活用しました。
トラストバンクで会長秘書や自治体担当、広報とさまざまな仕事を務めて1年の出向を終えた立崎さんに、仕事の経験や価値観の変化、今後のビジョンについて聞きました。
(WeWork渋谷スクランブルスクエアのオフィスで働いている立崎さん)
・創業者の地域への想いに共感
・自治体職員の想いを直に知る
・行政に積極的に関わるように
・人前に立つことにも挑戦
・「地域のためになるのか?」を問いながら
――ecboではどんな仕事をしていましたか?
PR担当として、報道対応やプレスリリースの作成、社内イベントの企画などをしていました。
30人規模のスタートアップなので、新しいことが日々起こります。通常業務だけでなく、今日決めてすぐに実行するというスピード感でしたね。
コミュニティマネージャーとして、利用者と店舗オーナーへのヒアリングやユーザーミートアップを開催し、持ち帰った課題をサービスに活かしていました。特に初期の頃は、カスタマーサポートやアライアンス、営業もやっていたので、役職関係なく臨機応変に対応していました。
――なぜ、「雇用シェア」に参加することになったのですか?
ecboの事業は観光客とイベント参加者が主な利用者なので、コロナの感染が拡大しサービスを停止せざるを得なくなりました。会社に残るか、転職するかを考える時間がありました。
そのタイミングで、同じ状況にあるスタートアップが企業カルチャーに合う仲間を手放したくないという想いから、一時的に社員が別の企業に在籍出向する仕組み「雇用シェアプロジェクト」が始まり、ecboも参加することになりました。
正直、初めは迷いました。転職で新たなフィールドに移るチャンスでもあるとは思いました。しかし、ecboに関わっていたい想いと、転職とは別の形で新しい会社と出会いチャレンジできる環境は自分のためにもなるかもしれないと思って手を挙げました。
転職はやりたいことだけでなく、合う会社を見つけるのに時間がかかります。「雇用シェア」では現職のスキルを見てもらったうえで仕事ができると聞いたので、今までの延長線上で働けるのがよいと思いました。もし、合う会社がなかったら転職かなと。
(ecboの仲間と立崎さん(左)。社長(右)が撮影してくれました)
――トラストバンクとの出会いは?
トラストバンクとは、昨年5月ごろに会長兼ファウンダー須永さんと代表取締役川村さんと面談する機会がありました。須永さんから、なぜトラストバンクを立ち上げたのかという話や地域に対する想い、今後の取り組みの構想を聞いて、地域のためにこんなに考え尽している方がいるのかと感動しました。
たとえば、災害支援では発生後に寄付を集める対応はできていますが、それだけでは地域が自走していけない。災害前の対応も大事だという話を聞きました。私自身、台風や津波の影響を受けやすい沿岸地域に住んでいますが、災害をここまで意識したことはなかったんです。
ほかにも、自治体の資源を活用して観光資源につなげるなど地域の人の意識から変えていくお話も聞きました。一つの国を作るんじゃないかと思いましたね。今まで誰もやってないことや、日本の未来につながるプロジェクトに関わることができるのは面白いし名誉なことだなと。
私や祖母の住んでいる地域も魅力はたくさんあるのに、身近な人にも部分的にしか伝わっていないなと課題を感じていました。大好きな地域をいかに持続させていくのか、その魅力をどのように伝えていくのか。こうした地域創生への関心も相まって、6月から働くことになりました。
――トラストバンクに入って最初の仕事は何ですか?
須永さんのアイデアを実現する少数精鋭チーム「遊撃軍」のメンバーとして入り、初めは須永さんの秘書を務めました。
秘書といっても未経験で前任もおらず、初めは何をしたらよいのかわかりませんでした。須永さんからも「秘書っぽい業務はやらなくていい」と言われ、自分で考えて仕事を見つけにいきました。
その一つが、須永さんが学長を務める自治体職員のコミュニティ「トラストバンクアカデミア」です。サイトの制作支援や更新作業をはじめ、ゲストと須永さんが対談するLIVE配信セミナーの運営進行もしました。自治体向けビジネスチャット「LoGoチャット」の専用コミュニティで、職員さんたちへの情報発信や学びたいテーマのヒアリングもしました。
(トラストバンクアカデミアで進行する立崎さん(右上)/2021年8月3日「これからの日本経済とDX:チェンジ代表福留さん」の回)
――アカデミアの仕事で得られた経験はありますか?
一番は自治体職員さんのパーソナリティに触れられたことです。
自治体職員さんは「トラストバンクアカデミア」に仕事以外の時間に自主参加してくれています。仕事を離れても地域のことを考えたり、セミナーに参加してノウハウを得ようとしたりする“アツい職員”さんの集まりです。
職員さんたちとのやり取りで、地域課題や全国の自治体の情報を教えてもらったこともありました。自治体職員さんが地域のために時間や想いを捧げていることを知り、一気に身近な存在になりました。
――トラストバンクならではの経験ですね。それ以外でも自治体さんとの関わりはありましたか?
コロナ禍で打撃をうけた地域の生産者をふるさと納税で応援する「ニコニコエール品プロジェクト」も兼任しました。主に自治体窓口や農水省の補助金申請書の作成をサポートしていました。
(ふるさとチョイス「ニコニコエール品プロジェクト」のTopページ)
自治体職員さんとの電話のなかで、「こうした方が生産者のためになりますよね」「(地域のために)一緒に頑張りましょう」と、地域のためにどうしたらよいかを自治体と試行錯誤しながら話を詰めていく場面がたくさんありました。
トラストバンクにくる前は自治体と接する機会がなく、「お役所だからお堅いのかな…」「うまくやり取りできるかな」と不安がありました。ですが、実際に話をすると、多くの自治体さんが住民にとってより良いサービスを提供しようと頑張っていることを知り、行政に対する価値観が変わりました。
――具体的にはどのように変わったのでしょうか?
もっと自治体を“味方”にしていこうと思いました。仕事だけでなく、普段から積極的に自治体に関わっていく方が地域にとっても自分にとってもよいと。
実際に、地元の茅ヶ崎市で知り合いの飲食店を立ち上げる活動を手伝っており、自分で自治体に問い合わせて行政と連携を進めています。
――トラストバンクでスキルアップした経験はありましたか?
一つは、人前に出ることです。今までは、PRでも表に立つのは社長や役員で、自分の顔や名前を出して人前で発信する機会はありませんでした。ですが、「ニコニコエール品プロジェクト」の自治体と事業者への説明会に登壇してみないかと声をかけてもらい、「やります」と引き受けました。
自分にとってはチャレンジでしたね。協力できることは何でもやろうという意思と、(出向期間は)新しいことにトライできる機会なので挑戦心を大事に取り組んでいました。
本番は他のメンバーにサポートしてもらいながらですが、自分にとっても難しい行政用語をわかりやすくかみ砕いて説明し、伝わるように伝えることの大変さを学びました。
顔と名前を覚えてもらえ、後日「立崎さんいますか?」と名指しで相談のお電話をいただいたのは嬉しかったです。人前に立つ醍醐味を知りました。
これまで、個人や少人数が相手のコミュニケーションが多かったのですが、大人数の前で発言する経験をして責任感が増し、背筋が伸びた気がします。
――今年2月には広報渉外部に異動し、Twitterの運用にも挑戦しましたよね。
はい。企業のTwitterアカウントを運用するのは初めてでした。トラストバンクの公式アカウントがあまり活発でなかった状況から、「なぜ、トラストバンクがTwitterを運用するのか?」「誰にどんな情報を届けたいのか?」など全体の戦略策定から取り組みました。
Twitterのアルゴリズムをゼロから調べ、苦手意識があったツールも使ってデータ分析もしました。自分のPRできる武器が一つ、増えたと思います。
(トラストバンクの公式Twitterアカウント)
――ecboやこれまでのスキルが活かされた場面はありましたか?
あらゆる部署のプロジェクトに機動的に参加してきました。ecboでもその時々に必要な仕事をしていた臨機応変さを発揮し、トラストバンクでもいろんな業務にすぐ適応することができました。
広報経験も、自治体や事業者に話すときに相手がどこまで理解しているのかを確認しながらわかるように伝えていく点で役立ちました。
――逆に苦労した場面はありましたか?
ecboは、いま誰が何をやっているのかわかる規模の組織で仕事も探しやすかったです。一方、トラストバンクは人数が10倍くらい多い会社なので、社員とのコミュニケーションの取り方は工夫しました。
兼務している各チームに相談できる人を見つけておくようにしました。自分から挨拶しに行ったり、個別にスラックを送って丁寧に話を進めたりして関係を作りました。
すると、「立崎さんですよね」と話しかけてくれる人も増え、困ったときに助けてもらったこともありました。
これまでスタートアップでのキャリアが主だったので、体系的な会社組織で働くのも初めてでした。「会社」という仕組み自体に触れられたのも日々の学びでしたね。
(社内の部活「モルック部」にも参加しました。上段左から3人目が立崎さん)
――トラストバンクに入る前と後の印象は変わりましたか?
こんなに地域のことを考えて取り組んでいる会社があることに感動しました。創業者の須永さんから広がっている想いを軸に、社員は「本当に地域のためになるのか?」と日々問いながら仕事をしていました。
企業は自分たちの利益にフォーカスしがちですが、トラストバンクは地域のためにアツい想いを持って取り組んでいる素敵な集合体です。出会えてよかったなと思います。
――最後に、今後はどのような活動をしていきますか?
これまでの経験を生かして、コミュニティ形成やファンづくりに関わる仕事をしていきたいと考えています。自分をハブにして人や情報がつながることで、カルチャーを活性化したり想いを伝播したりしていきたいです。
大学では社会学の「カルチュラル・スタディーズ(文化研究)」を学んでいました。文化は1人の人間の中にもあり、他の人の文化とつながることで新しい文化が生まれていく。こうした考え方を知り、面白いなと思いました。
コミュニティは2人でも何十人でも規模は関係ありません。人と人がつながることで新しい化学反応が起きたり、各々のやりたいことが実現しやすくなったりする。自分の周りの人たちが活動しやすくなるお手伝いができれば嬉しいです。
トラストバンクと出会い、どこの地域にいても自分のやりたいことを実現できる環境をつくりたいとも思いました。コロナで働き方が多様化し、地方への移住者も増えています。地域で活動する人たちをつなぐことで活動をさらに活性化させていくのも面白そうです。
地域には素敵な取り組みや場所がたくさんあり、そこに関わる「人」にも出会えました。こうした地域の魅力発信にも携わっていきたいです。
「トラストバンクと出会えてよかった」と言ってくれた立崎さん。私たちも出会えてよかったです。またどこかで巡りあいましょう!