高橋さんは株式会社トラストバンクが展開する地域事業者支援事業を担う、シマバカ室※1に所属し、事業者たちの最も近くで、PO(プログラム・オフィサー※2)としてお仕事をしています。
高橋さんは3年間にわたって6つの実行団体に伴走をしてきましたが、その中でも今回は「一般社団法人ローランズプラス」との歩みを深掘りします。
舞台は、神奈川県横須賀市。ゼロからスタートした「ローランズファーム」の挑戦を通じて、社会的な価値と経済的な自立をいかに両立させていったのか。その泥臭くも希望に満ちた「シマバカ(ゼブラ化)」の舞台裏に迫ります。
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※1:地域事業者がソーシャルビジネスに取り組み、地域の課題解決を図り、社会的&経済的インパクトをもたらす組織へ変容することを弊社で “シマバカ/縞馬化” と名付け、地域事業者のシマバカに向けた専門的サポートを展開しています。
※2:PO(プログラムオフィサー)とは、助成を行う機関に配属され、助成プログラムの立案や助成案件のリストアップ、審査プロセスのマネジメント、助成プログラムの評価等を行う専門職のこと。以下リンク先、参考の過去連載。
<有希子のPO日記①>休眠預金活用事業における「プログラムオフィサー」とは?その役割についても紹介
https://www.trustbank.co.jp/tbbase/social/tbbase067/
ゼロからの開拓:横須賀の地に「働く場」を創るということ
ローランズプラスは、「みんなみんなみんな咲け」をスローガンに、「人を咲かせる花屋」として障がい当事者の雇用・育成を行ってきた団体です。彼らが今回、休眠預金活用事業として取り組んだのは、横須賀市に新たな拠点「ローランズファーム」を立ち上げ、横須賀市近郊の障がい当事者の就労機会を創出することでした。
しかし、その幕開けは「決して簡単でなかったと思います。」と高橋さんは語ります。
「ローランズさんはもともとお花屋さんとしてお花を『売る』プロではありましたが、自分たちでお花を『育てる(一次産業)』経験はありませんでした。横須賀という土地に縁があったわけでもありません。文字通りゼロからのスタートでした。」
まず立ちはだかったのは、物理的な環境整備と地域との関係性でした。土地を確保し、周辺の農家さんを一軒一軒回って理解を得る。お花を育てるための水を引き込み、設備を整える。そこには、地道で泥臭い作業と調整が多くありました。
「事業責任者の佐藤新平さんが、地域の方々と丁寧に、粘り強く対話を重ねていく姿を見てきました。その熱意が伝わり、少しずつ地域の中に『ローランズ』という存在が溶け込んでいく。そのプロセスこそが、事業の土台となっていくのを感じました。」
「当たり前」を積み重ねる現場の凄み
ファームが立ち上がり、当事者の方々が働き始めると、現場にはまた別の難しさが現れます。障がい特性は一人ひとり異なり、必要なサポートも千差万別です。ここで高橋さんが「伴走者として最も感銘を受けた」と語るのが、ファーム現場責任者である関さんの存在でした。
「関さんが責任者になってから、ファームの空気がまた少し変わったと感じました。関さんは『どうすれば当事者の方が迷わず、安心して働けるか』を徹底的に考え、実行されていました。」
例えば、ホワイトボードに書かれた1日のスケジュール。誰が、いつ、何をするのかをすべて「ひらがな」で詳細に書き出し、一目で自分の役割がわかるように工夫されました。また、聴覚障がいを持つ方とも円滑にコミュニケーションが取れるよう、全員が常にコミュニケーションボードを携行し、意思疎通の壁を物理的に取り払っていったのです。
「外部から見れば『当たり前の配慮』に見えるかもしれません。でも、その当たり前を、毎日、一人ひとりに合わせて、妥協せずにやり続けることは、並大抵の努力ではできないことだと思っています。現場での地道な工夫の積み重ねが、当事者の方々の『自分にもできた!』という自信に繋がり、やがてファーム全体が鮮やかなお花で彩られていく。その変化は、私にとっても大きな学びでした。」
社会性と経済性の交差点:独自の「ゼブラ・モデル」を読み解く
シマバカ(ゼブラ化)支援において、最も重要な要素の一つが「経済性の確保」です。社会課題の解決を志しながらも、持続可能なビジネスとして自走する。ローランズプラスはこの難題に対し、非常にユニークなモデルで挑んでいます。
「ポイントは、支援を届ける『受益者』と、対価を支払う『顧客』を明確に分けたことにあると思います。」と高橋さんは分析します。
受益者: 横須賀市近郊で就労を希望する障がい当事者
顧客: 法定雇用率の達成や障がい者雇用のノウハウに課題を持つ大手企業
このモデルでは、障がい当事者の雇用に課題を持つ企業がローランズファームで働く当事者を自社の社員として雇用し、ローランズはその障がい当事者の方々の「お花を育てるファーマー」としての育成と現場管理を請け負います。
「このモデルでは、ローランズさんが、障がい当事者スタッフへ花の栽培技術の指導と品質アドバイスを実施し、企業さんのお花栽培スケジュールに沿って栽培が計画的にいくようサポートします。
そこで育てたお花の納品や販売などは、企業さん側が立案〜実行までを当事者スタッフと共に実施されています。 このローランズさんと企業さんとの事業モデルが生まれた背景は、元々ローランズさんに毎月お花を一定金額発注されている企業さんと、事業責任者の佐藤新平さんが会話されたことがきっかけだったそうです。
既に毎月大量のお花をローランズさんにご発注いただいて、企業さんとしてもお花を様々な用途で活用している企業さんであれば、自社でフラワーチーム(部門)を作り、自分達で育て、自社のお花をお客様や社内エンゲージメント向上に活用する、そしてその活動で障がい者雇用を経済活動に活かせる形で戦力として雇用するも実現できるのではないか、と考えたのが出発点だったそうです。
結果、このモデルを導入された企業さんから、元々発注していたお花の年間コストが下がったこと(リダクション効果)、社内でダイバーシティへの取り組みに関心が高まり、若手の有志が自主的にファームを見にいくなど良い循環が生まれたこと(エンゲージメント向上)、企業さんのお客様に大変喜んでいただき、口コミでも評価されたこと(サービス価値の向上)などのお声を、企業さんからいただくようになったそうです。この循環が、ローランズさんならではの「全方向よし」の事業モデルだと思っています。」
「商品企画担当・高橋」として:外部の人だからできること
伴走の過程で、高橋さんは自身のこれまでのキャリアをフルに動員することになります。象徴的だったのが、ファームで生産したお花を「ふるさと納税のお礼の品」として登録するプロジェクトでした。
「前職での商品企画や、トラストバンクでのMD(マーチャンダイザー)としての経験を活かすことができました。ファーム責任者の関さんは、商品としてどう見せ、どう売るかという企画の経験がまだありませんでしたが、本事業において、toCに向けた”ファームで作ったお花を活用した商品企画”を進める必要がありました。私は、トラストバンクのPOという立場に加えて、『ローランズプラスの商品企画担当』になった体で、一緒に商品企画から社内調整などを進めさせていただきました。」
高橋さんは、ただアドバイスをするのではなく、コンセプトシートの書き方、ターゲット設定、自治体への提案資料の作り方など、自身の持つノウハウをすべて共有しました。
「特に意識したのは、私が代わりに全部作ってしまうのではなく、関さんの中に『企画の型』を残すことでした。トラストバンクの助成期間が終わった後も、関さんで商品企画を進められるように。そんな想いで、日々ミーティングで議論を重ねました。」
さらに、外部のネットワークを活用し、産業能率大学の学生たちとの連携もコーディネートしました。ローランズファームが企画する中高生向けツアーに対して、マーケティングを学ぶ学生たちが、若者の感性でファームのプロモーション案を練る。この取り組みは、単なる広報活動に留まらず、次世代の「理解者」を増やすという、長期的な社会インパクトにも繋がっています。
相手と「心と心が触れ合う瞬間」
ローランズさんの事業は、常に順風満帆だったわけではありません。
「豪雨でファームが水没してしまった時は、本当に胸が痛みました。復旧作業に追われる現場の皆さんに、どう言葉をかければいいのか。それでも、懸命に復旧にあたるスタッフの皆さんに何かできることはないか。本当に微力ではありますが、復旧作業もお手伝いに行かせていただきました。」
高橋さんが大切にしてきたのは、「外部の人」という客観性を持ちながらも、事業者と同じ熱量で事業を愛することでした。
「ランチをご一緒したり、お酒を飲みながら話したり、毎回のミーティングで対話を重ねたり。そんな何気ない時間の積み重ねがとても大切であったと実感しています。『高橋さん、ずっと事業一緒にやりましょうよ!』と言っていただけた時は、本当に嬉しく思いました。」
10年後、当たり前に「みんなが咲いている」景色を目指して
3年間の支援期間を経て、ローランズファームは今、自立した「ゼブラ組織」として着実に歩みを進めています。ファーム事業は黒字化の目処が立ち、横須賀市内での認知度も高まっています。
「今後は横須賀でのモデルを成功事例として、他の地域へ横展開していくことが期待されています。障がい当事者の方が、地域の中で包摂され、価値を交換し合う一員として当たり前に存在する。そんな景色を日本中に広げていきたいと、ローランズの皆さんは語っています。」
高橋さん自身も、この伴走を通じて得た教訓を、次の支援へと繋げようとしています。
「今回の事例を通じて、伴走支援において『体制の構築』と『受益者・顧客の明確化』がいかに重要かを再認識しました。そして何より、POとして私たちがすべきことは、支援先事業者皆さまの『力』を信じ、そのポテンシャルが最大化されるように隣で走り続けること。これに尽きるのだと思います。」
PO、受益者、顧客、そして事業者。4つの立場が交差し、化学反応を起こしながら社会を変えていく。高橋さんがローランズプラスと共に描いた軌跡は、地域における「新しい豊かさ」のあり方を、私たちに鮮やかに示してくれています。
高橋有希子 (たかはしゆきこ)
秋田県秋田市 出身
秋田の酒造メーカーにて、商品企画と輸出業務に従事。
2020年 トラストバンク入社。ふるさとチョイスのMDを担当。
2023年 地域の事業者への助成・伴走支援を通じて地域課題解決を目指す新設部署「休眠預金活用/ソーシャルイノベーションデザイン室」へ異動。
現在、プログラム・オフィサーとして活動中。
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