トラストバンクが2023年から本格開始した新規事業「休眠預金活用事業」。本事業部のメンバーは、休眠預金を主な財源として、事業者さんが考える「地域の課題解決」と「持続可能な収益性」を同時に叶えられるソーシャルビジネスを、実行に至るまで併走しています。
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この、TBbaseの期間限定特別連載「有希子のPO(ピーオー)日記」では、そんな「休眠預金活用事業」に携わる「プログラムオフィサー(PO)」の普段のお仕事内容や、採択された事業者さんのプロジェクト進捗などを現場からお届けします!
こんにちは!休眠預金活用事業/ソーシャルイノベーションデザイン室の有希子です。
先日、私が住む千葉県では公立高校の入試試験が行われていました。入試シーズン真っ只中ですね。受験生の皆さん、受験生を支えるご家族の皆さん、寒暖差が激しい日が続いていますので、体調にくれぐれもお気をつけてください。
さて、今回のPO日記は、「排除なく、誰もが花咲く社会」を目指して、花や緑のギフトや空間装飾サービスを通じて障がいや難病と向き合うスタッフを多数雇用し、障がい当事者の雇用と可能性をさらに拡大しようと活動されている一般社団法人ローランズプラスさんにお伺いした際のレポートをお届けしたいと思います。一足早く、春を感じていただけたらと思います!
<一般社団法人ローランズプラスさんについて>
一般社団法人ローランズプラスさんは「社会的役割を基盤としたお花屋さん」として、生花業を軸に、フラワーギフトやブライダル装花、屋内外の緑化企画などの事業を展開されています。これらの事業を通じて、障がいや難病と向き合う方の採用を積極的に行っており、現在は全従業員の約70%が障がいや難病と向き合う方々です。
代表の福寿さんが、この事業を始めるきっかけとなった出来事は、学生時代に特別支援学校教諭の免許を取得するために教育実習に行ったことでした。そこで、障がいと向き合う子どもたちが「パイロットになりたい」「看護師になりたい」と将来の夢を語る中、当時の障がい当事者の就職率は低く、そもそも仕事に就くこと自体が難しい現実を知りました。福寿さんは、「障がいと向き合う子どもたちがやりたい仕事に就ける、夢を実現できる社会を目指したい」と考え、会社を立ち上げ、ローランズプラスさんの現在の事業に繋がっているそうです。
<ローランズプラスさんが考える「誰もが花咲く社会」とは>
「日本における障がい当事者の人口は約936万人で、人口の約7%を占めると言われています。このうち、仕事に従事できる世代(18-65歳)にあたる人口は約388万人ですが、その86%(約333万人)が未就労の状態にあります。
障がい当事者の雇用については、障害者雇用促進法により一定割合の方を雇用することが定められていますが、民間企業における雇用率を達成した企業の割合は48%に留まっています。特に企業規模で見た場合、法定雇用率を達成していない企業は中小企業に多く、中小企業が多い地方部においては、障がい当事者の方々の就労に関するハードルが高くなっている、ということが考えられます。」
上記は、ローランズプラスさんの2023年弊社へ申請時の事業計画に書かれている、本事業で取り組む社会課題を記した箇所の一部です。ローランズプラスさんが考える受益者(事業を通して課題を解決する対象)は、一貫して「障がいと向き合う方々」で、個人的に、未就労の状態にある障がい当事者の方の割合・数の多さに衝撃を受けたことを覚えています。
さらにこの「地方部での障がい当事者の就労に関するハードル」をローランズプラスさんと深ぼると、「障がい当事者の方で就労意欲があったとしても、自身が希望する職種や業務が居住地になく未就労に至っている」もしくは「就労していたとしても就労の『ミスマッチ』が生じている」ということが整理できました。
ここで改めて強く感じたことは、障がいに向き合う方々は職の選択肢が圧倒的に少ない、ということです。自分の住む地域で働きたいと思っても、応募できる職は軽作業や単純作業ばかり、といったことはよくあるそうです。
上記の課題解決を目指し、ローランズプラスさんは、本事業で地域での障がい当事者の方々の新たな就労先を創出し、また雇用のミスマッチもなくす「障がい当事者が地域経済に参画できる、地域循環型ファーム」=「ローランズファーム」を神奈川県横須賀市に立ち上げます。
「ローランズファーム」は2023年8月に実質OPENしているのですが、設備や栽培するお花などがどんどん整えられてきている、ということで、お打ち合わせを兼ねて視察をさせていただきました。
<ローランズファームが持つ地域での大切な役割>
京急線「京急三崎口」駅から車で10分ほど行ったところに、ローランズファームはあります。
600坪の土地で季節のお花を栽培しており、お伺いした日は、ちょうどマリーゴールドが見ごろを迎えていました。
2023年8月にローランズファームのオープニングイベントが開催されたのですが、その際は、ローランズファームいっぱいにひまわり畑が広がっていたそうです。
現在は、毎年シーズンごとで栽培するお花や植物がうまく育つかどうかの実験を行っているそうで、6名の障がい当事者の方がお仕事に従事されていました。
季節のお花の栽培以外にも、しいたけを栽培する「しいたけハウス」の設置を進めており、ここで栽培したしいたけは、地域の店舗などで販売を進めていく計画だそうです。
その他にも、いろんなお花が見ごろを迎える時期に、お客様向けのイベントを計画されているそうで、横須賀の青空の下でたくさんのワクワクするお話をお伺いしました。
そのお話の中で、これからローランズファームがさらに担う、地域での大切な役割が見えてきました。
①障がい当事者が活き活きと働ける新しい雇用の場をつくること
現在、横須賀市で生活する障がい当事者の総数は約2.5万人と推計されていて、このうち働ける世代(18-65歳)は約8,000人と言われています。このうち約9割にあたる7,200人が未就労の状態であり、また横須賀市で働きたい希望があったとしても就労機会や選択肢が少なく、片道2時間ほどかけて横浜市や都内で勤務しており身体的負担が大きい、という声があるそうです。ローランズファームでは、お花やしいたけの栽培という農作業だけではなく、お花のラッピング作業や店舗スタッフ、イベント企画など多様な職種があり、雇用のミスマッチが生じないようにしている一方で、障がい当事者の「やりたい」という希望と、その方が持つ適性に合わせて仕事を調整されています。
また、障がい当事者の方々の仕事というと、どうしても単純作業になりがちなところではあります。ローランズファームでは、業務の幅を「袋詰め」だけではなく、「作物を育てて、袋詰めする」というところまで大きく広げながら業務を細分化し、障がいと向き合う方々でも業務に抵抗がないように、まずは好きなこと・できることを増やしていけるように工夫がされています。
障がい当事者が活き活きと自身のできること・やりたいことを仕事にしていく、横須賀市での大切な雇用創出の場になっています。
②地域のネットワークを形成すること
ローランズファームを開設する前、現場責任者の佐藤さんは近隣の農家さんへご挨拶やヒアリングをずっと積み重ねていたそうです。その中で周辺の畑には水の設備がないから不便、というお話をお伺いしたそうで、ローランズファームの中に地下水をくみ上げる設備を整えられました。(佐藤さんの地道かつ着実な関係性構築の力は、本当にスゴイなと思います)
近所の農家さんもこの水を使いに気軽に行き来をされたり、作物の栽培方法を教えていただいたりなど、この地域の一員としてローランズファームがあることを実感しました。その中で、「農地の跡継ぎがいないから、農地を貸出ししたい」といったお話も農家さんからいただいているそうで、ローランズファームが、今後使われなくなるかもしれない農地を活用することで、さらに事業を地域に還元できる可能性も見えてきています。
また、現在農業高校とも連携を開始していて、障がい当事者の方と地域の方が仕事や事業を通じて交流する機会も作られています。こういった地域を繋ぐネットワークが、ローランズファームを通じてどんどん形成されていくことがとても楽しみです。
事業担当者の田中さんは、「このローランズファームという取り組みを横須賀市以外の地域にも広げていきたい」とお話されています。
そのためにも、本事業の事業期間で、ローランズファームの取り組みをしっかり軌道に乗せていくことが大切になってきます。
ローランズファームのお取り組みや成果をしっかりとお伝えできるよう、トラストバンクも引き続き伴走させていただきますので、ローランズプラスの皆さん、どうぞ引き続きよろしくお願いいたします!
これから春になるにつれて、お花もたくさん見ごろを迎えてくるので、ぜひ皆さんもローランズファームへ遊びに行ってくださいね!!
▼ローランズファーム
https://lorans.jp/farm.html
次回は、本事業で事業者さんが取り組んでいる商品開発の様子をアツくお伝えできたらと思っています!
ではでは、次回もどうぞよろしくお願いいたします!