構想に、温かい血を通わせる人々の物語
前編では、「シマバカ室」※が地域事業者の皆さんと共に歩むための、哲学と活動の仕組みについてお話ししました。ソーシャルとビジネスという二つの車輪で、地域の未来を切り拓こうとするその挑戦は、トラストバンクが目指す新しい社会貢献の形でもあります。
しかし、その構想に命を吹き込み、温かい血を通わせているのは、コンピューターでもAIでもなく、紛れもない「人」の想いです。後編では、少数精鋭でこの大きな使命に挑むシマバカ室の、日々の奮闘の様子、つまり「戦い方」に光を当てていきます。チームとして、そして一人の人間として、彼らはどのように事業者さんと向き合い、未来の物語を紡いでいるのでしょうか。引き続き、羽部さんに伺いました。
※地域事業者がソーシャルビジネスに取り組み、地域の課題解決を図り、社会的&経済的インパクトをもたらす組織へ変容することを弊社で “シマバカ/縞馬化” と名付け、地域事業者のシマバカに向けた専門的サポートを展開しています。
小さなチームだからこそ生まれる、深く、豊かな対話
シマバカ室は、決して人数の多いチームではありません。中心となって動いているメンバーは、ほんの数名です。しかし、その「小ささ」こそが、他に真似のできない最大の強みになっているようです。
「中心となるメンバーは3名ですが、それぞれの得意なことや経験が全く違います。でも、だからこそ面白いんです。事業者さんとの週に一度のミーティングには、私たちメンバー全員で参加します。そして、それぞれの立場から『こうしたらもっと良くなるかも』『こんな視点はどうかな?』と意見を出し合います。誰か一人の声が大きい、ということはありません。まるで、様々な色の絵の具が混ざり合って、一つの新しい色が生まれるような感覚です。この対話の時間があるからこそ、私たちだけでは決して見つけられなかったような、新しい可能性の扉が開くのだと感じています。」
羽部さんが話してくれたチームの姿は、まるで一つの生命体のようでした。事業全体を見る人、現場で事業者さんに寄り添う人、お金の流れを支える人、そして外部の専門家。それぞれの役割から生まれる知見が、一つのテーブルの上で交差し、化学反応を起こす。そうして生まれた光で、事業者さんが進むべき道を、多角的に、そして明るく照らし出しているのです。
「チームの中では、『あれ?』とか『どうしてだろう?』と感じたことを、絶対にそのままにしません。すぐに言葉にして共有できる安心感があります。この正直でいられる関係性が、私たちの支援の品質を、確かに支えてくれているのだと思います。」
書類の向こう側にいる「人の顔」を想う仕事
チームの中で、羽部さんは「資金管理」という、非常に繊細で重要な役割を担っています。一見すると、数字や書類と向き合う事務的な仕事のように思えるかもしれません。しかし、彼女の言葉を聞くと、そのイメージは一変します。
「私が担当しているのは、休眠預金という公的なお金の管理です。事業者さんから提出していただくレポートの一つひとつを、丁寧に見させていただいています。なぜ、そこまで時間をかけるのか。それは、このお金が、元をたどれば国民の皆さまからお預かりした大切な資産だからです。そして何よりも、この素晴らしい取組によって、一生懸命頑張っている事業者さんが、ほんの少しの綻びから、あらぬ誤解を受けたり、悲しい思いをされたりするようなことだけは、絶対にあってはならない。その一心です。」
彼女の仕事は、単なる数字のチェックではありませんでした。それは、事業者という「人」を守るための、優しくも力強い盾となる仕事なのです。「時には、飛行機に乗ったことを証明する『搭乗証明書』までお願いすることもあるんですよ」と、羽部さんは少し申し訳なさそうに笑います。しかし、その細やかな確認作業の一つひとつが、事業者への深い愛情と、公金を預かる者としての静かな誇りの表れなのです。
「書類の不備を正直にお伝えするのは、心が痛むこともあります。でも、それが後々、事業者さんを守ることに繋がると信じています。私と、その他のメンバーで三段階でチェックするほどの体制を整えているのも、全ては事業者さんが、お金の心配をすることなく、ご自身の事業に安心して集中できる環境を作るためです。」
心と心が触れ合う瞬間に、未来の種は蒔かれる
インタビューの最後に、羽部さんは、これから自身が担っていきたい役割について、未来を見つめるように話してくれました。
「資金管理の専門性を高めていくことはもちろんですが、それと同じくらい、いえ、それ以上に、事業者さんとの心と心の繋がりを大切にしていきたい、と強く思っています。この部署に来て一番心に響いたのは、メンバーが事業者さんから、事業とは直接関係のなさそうな悩みまで相談されている、その光景でした。それほどまでに深い信頼関係を築いていることに、静かな感動を覚えました。」
彼女が目指しているのは、単なるビジネスパートナーとしての関係を超えた、血の通ったコミュニケーションです。
「何気ない雑談の中から、事業者さんの心が少し軽くなったり、私たちが外の世界で得た小さな情報が、新しいアイデアのヒントになったりするかもしれない。支援期間という限られた時間が終わった後、いつかふとした時に、『そういえば、シマバカ室とのあの時の会話が、今の自分たちの原点になっているよね。』そんな風に思い出していただけるような、温かい記憶に残る伴走をしていきたいと思っています。未来に花咲く小さな種を、対話の中にそっと蒔いていくような、そんな関わり方ができたら、これ以上嬉しいことはありません。」
それは、かつてGCF(ガバメントクラウドファンディング)チームで自治体という大きな単位と向き合っていた彼女が、シマバカ室で一人の事業者、一人の人間と深く向き合う中で見つけた、新しいやりがいなのかもしれません。
地域を照らす、温かい光であり続けるために
シマバカ室の挑戦は、まだ始まったばかりです。しかし、彼女たちが大切にしている「伴走」という姿勢は、これからの社会で、企業や人がどうあるべきか、という問いに対する、一つの答えを示してくれているようにも感じます。
効率や規模だけを追い求めるのではなく、一人の人間の情熱にどこまでも寄り添い、その成功を我がことのように願い、組織の力を結集して支えていく。その丁寧で、誠実な営みの中にこそ、地域を、そして社会を本当に変えていく温かい力が宿っているのではないでしょうか。
羽部 充代 (はぶ みつよ)
東京都江東区/岐阜県高山市 出身
英語研修会社にて、海外研修、マネジメント研修の企画・運営を担当。
翻訳会社を経て、クラウドファンディングのポータルサイト運営会社に転職。
2019年12月、トラストバンク入社。GCF🄬のキュレーション業務を5年間担当。
2025年6月、シマバカ室に異動。プログラム・オフィサーとして活動を開始。