一番近い「外部の人」として、事業者と共に悩み、走る。前編では、トラストバンクのシマバカ室※:PO(プログラム・オフィサー)高橋有希子さんが実践する「伴走」の哲学と、その根底にあるコミュニケーションの重要性に迫りました。
後編では、彼女が伴走支援を行ってきた6つの事業のうち、3つの事業者との具体的なエピソードを紐解きながら、「PO日記」では語りきれなかった現場のリアルな物語と、そこで生まれた化学反応の裏側を明らかにします。一つひとつの事業に、それぞれのドラマがありました。
※地域事業者がソーシャルビジネスに取り組み、地域の課題解決を図り、社会的&経済的インパクトをもたらす組織へ変容することを弊社で “シマバカ/縞馬化” と名付け、地域事業者のシマバカに向けた専門的サポートを展開しています。
※弊社コーポレートサイト「地域事象者支援事業について」ページより抜粋 https://www.trustbank.co.jp/ourservice/shimabaka/
HONESTIES:原点への問いかけが、未来を照らす
※2023年7月:事業設計に関するMTG後に、HONESTIESさんの兄弟会社が運営する「SON cafe」の前で
前後裏表のない肌着を手がけるHONESTIES株式会社。
画期的なプロダクトを開発・販売される中で、地道な作業を共に実施する中で、信頼関係の礎が築かれていきました。「領収書や収支管理を経理ご担当者さんと一緒に整理することから始めました」と高橋さんは振り返ります。この事業では公的な資金を扱う以上、透明性は不可欠です。
そして伴走が深まる中で見えてきたのは、より根源的な問いでした。「HONESTIESさんとして、本当に課題を解決したいのは誰なのか。」プロダクトアウトの思考に陥りがちな時、高橋さんは彼らとを事業の原点へと立ち返ります。
「会社の理念やMVV(ミッション・ビジョン・バリュー)に立ち返り、自分たちが何のためにこの事業を始めたのかを一緒に考えました。それは、私から答えを提示するのではなく、HONESTIESさんご自身の中から答えを見つけ出してもらうためのプロセスだったと思います。」
この問いに向き合ったことで、事業の軸はより強固なものになりました。伴走とは、時に事業の根源を問い直し、その羅針盤を再確認する旅路でもあるのです。
御祓川:有事の底力から学んだ「中間支援」の魂
※2024年12月:支援先の株式会社御祓川と連携して行った、産業能率大学学生参加の能登ボランティアプロジェクトの様子
能登半島地震という未曾有の事態は、株式会社 御祓川の伴走支援にも大きな影響を与えました。スタッフ自身も被災するなか、彼らはすぐさま地域の地産品事業者の状況把握を開始。販路を失った事業者のために、自社が運営するECサイト「能登スタイルストア」での販売を即座に決定します。そのスピード感と、「地域の事業者に寄り添う」という揺るぎない姿勢に、高橋さんは心を動かされました。
「御祓川の皆さんの姿から、『中間支援』としてのあるべき姿を学ばせていただきました。平時とは違う、有事の伴走。
私にできることは限られていましたが、彼らが地産品事業者さんの支援に集中できるよう、事業に関連する雑務や整理など、裏方に徹することを意識しました。」
事業計画の変更や中断も検討されるなか、御祓川は「やるべきことは変わらない」と、震災前と同じ目標を掲げ、事業を推進することを決断します。その覚悟を隣で支え、黒子として全力を尽くす。それは、伴走者としての役割を深く問い直す、忘れられない経験となりました。
ORGAN:リスペクトから生まれる、0→1への挑戦
※2024年4月:芸舞妓を育成する「岐阜伎芸学院」開校式の様子
岐阜の伝統文化である和傘・芸舞妓の世界に「和傘塾(和傘職人を育成する学校)」「岐阜伎芸学院(舞妓を育成する学校)」という新たな仕組みを創り上げた、NPO法人ORGAN。この0→1の挑戦は、ORGANが長年岐阜の地で築き上げてきた関係性という土台があってこそ成し得た、偉業でした。
「設立までのORGANさんの動きには、本当にリスペクトしかありません。私たちの支援は、主に資金面でお手伝いできたことに過ぎませんが、この素晴らしい挑戦の一部に関われたことを誇りに思います。」
しかし、設立はゴールではなく、新たなスタートです。「設立して終わり、ではありません。研修生を定期的に募集する仕組みや、塾・学院を運営していくための資金調達など、設立した後も取組は続きます。私たちの伴走も、今まさにそこが正念場です」と高橋さんは語ります。事業者のこれまでの歩みに深い敬意を払いながら、その未来を共に描き、具体的な課題解決に奔走する。その姿勢こそが、伝統という重みのある世界で新しい風を起こす原動力となっています。
ソーシャルとビジネスの間に灯す、「社会的インパクト」という光
※2025年8月:株式会社御祓川さんの受益者インタビューを実施中、和倉温泉の今後の復興計画について共有を受けている様子
異なる課題、異なる個性を持つ事業者たち。しかし、彼らが成功するために共通して重要なことがあると高橋さんは指摘します。「『ソーシャル』と『ビジネス』のバランス感覚、そして『誰の課題を解決するための事業なのか』を見失わないことです。」
「地域の課題を解決したいという想いだけでは、事業は続きません。一方で、収益だけを追い求めては、ソーシャルビジネスとしての魂を失ってしまいます。この両輪を回し続けるために、私たちは『社会的インパクト評価』という手法で支援を行っています。」
「社会的インパクト評価」とは、事業が社会に与えた変化を、定量的・定性的に可視化する試みです。「売上が上がった」という数値だけでは語れない、地域や受益者に生まれたポジティブな変化こそが、事業の本当の価値であると高橋さんは考えています。
「この事業を通じて、地域にどんな笑顔が生まれたのか。誰の人生が少し豊かになったのか。そうした『数値では語れない成果』を明確にすることで、事業者さん自身が事業の価値を再認識し、次の協力者や応援団を見つける力になります。私たちの支援が終わった後も、彼らが自走していくための、大切な道標になるんです。」
伴走者として、人として。チームで描く未来
2年以上にわたる伴走の経験は、高橋さん自身にも大きな変化をもたらしました。「自分の当たり前は、他の人の当たり前ではない。」事業者との多様な関わりの中で、この言葉の意味を深く実感したと言います。想像力を働かせ、相手に寄り添う。そのコミュニケーションの先にしか、本当の協働は生まれません。
そして、その学びと成長は、決して一人で得たものではないと強調します。
「ソーシャルの『ソ』の字も知らなかった私がここまでやってこられたのは、シマバカ室のチームメンバーのおかげです。各々が得意分野を持つメンバーが、多様な視点で事業を見てくれる。一つの事業をチームで推進できることが、本当にありがたいです。」
事業を計画することは一人でもできるかもしれない。しかし、事業を推進することは一人では絶対に難しい。この言葉は、支援先事業者だけでなく、支援する側の高橋さん自身の実感でもあります。
「答え」を安易に渡すのではなく、対話を通じて事業者の中に眠る「問い」を灯していく。高橋さんの伴走の旅は、これからも続きます。それは、地域に新たな価値を生み出す旅であると同時に、人と人が向き合い、共に成長していく、希望に満ちた物語なのです。
高橋有希子 (たかはしゆきこ)
秋田県秋田市 出身
秋田の酒造メーカーにて、商品企画と輸出業務に従事。
2020年 トラストバンク入社。ふるさとチョイスのMDを担当。
2023年 地域の事業者への助成・伴走支援を通じて地域課題解決を目指す新設部署「休眠預金活用/ソーシャルイノベーションデザイン室」へ異動。
現在、プログラム・オフィサーとして活動中。
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・有希子のPO日記②
・有希子のPO日記③
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