前編では、「シマバカ」※という力強い旗印が、いかにして生まれ、チームの羅針盤となったのかを紐解いた。それは、社会性と経済性の両立を目指す地域事業者への、愛とリスペクトに満ちた応援歌でもあった。
しかし、これほどまでに熱いコンセプトを掲げ、事業を駆動させる力はどこから来るのだろうか。後編では、「シマバカ」※の提唱者である元岡さん自身の“情熱の源泉”に迫る。彼の心を突き動かした原風景、そして「シマバカ」というムーブメントが描く、日本の地域の新たな未来像とは。
※地域事業者がソーシャルビジネスに取り組み、地域の課題解決を図り、社会的&経済的インパクトをもたらす組織へ変容することを弊社で “シマバカ/縞馬化” と名付け、地域事業者のシマバカに向けた専門的サポートを展開しています。
情熱の源泉―先人たちが置いていった“石”を拾う旅
「この事業は絶対に社会に必要だ。」その揺るぎない信念は、どこで育まれたのか。元岡さんの物語は、東日本大震災後の福島県へと遡る。
「震災復興の中間支援組織で活動していた頃に出会った、地域事業者の皆さんの姿が忘れられません。例えば、ある洋食屋の店主は、ご自身も大変な状況にもかかわらず、地域の飲食店仲間を巻き込んでイベントを企画し、市民のためにと奔走していました。**自分のためだけでなく、地域のために、人のために。**その熱量と想いに、心を激しく揺さぶられました」
県庁の嘱託職員としてNPOに出向し、地域づくりの現場にも立った。そこで見たのは、立場を超えて地域のために奮闘する人々の姿。その情熱に触れる中で、元岡さんの中に一つの想いが芽生えていった。
「彼らのような人たちが、もっと報われる仕組み、もっと挑戦しやすくなる仕組みは作れないだろうか。トラストバンクに入社してからも、その想いは常に心の中心にありました。今やっていることは、あの時出会った人たちやトラストバンクで出会った人たちが『こうなるといいよね』と、未来のために置いていってくれた“石”を、一つひとつ拾い集めているような感覚なんです。だから、僕が熱く語っているというよりは、『あの人たちが見たかった未来は、これだったんじゃないか』と問い続けながら、進んでいるだけなのかもしれません。」
※弊社ニュースリリース「トラストバンク、休眠預金約1億360万円を活用する地域事業者支援で、地域課題解決に取り組む6団体の事業への助成を決定」(2023.05.31)より抜粋 https://www.trustbank.co.jp/newsroom/newsrelease/press623/
その想いは、トラストバンクでふるさと納税の仕組みを活用した「ガバメントクラウドファンディング(GCF)」に携わる中で、確信へと変わっていく。そして、休眠預金を活用した事業者支援の公募を行った際、その想いは地域の“切実な声”として、跳ね返ってきた。
「採択できるのは6事業者という枠に対し、検討段階で100以上、実際の応募だけでも50を超える事業者さんから手が挙がったんです。これはもう、僕たちの思い込みではない。地域には、生業を通じて社会課題を解決したいという、ニーズが確実に存在しているんだと、改めて身が引き締まる思いでした。」
“貢献”を語る未来へ。あなたも「シマバカ」かもしれない
「シマバカ」が増えた地域は、どんな風に面白くなっているだろうか。元岡さんが見ている未来の景色は、実にシンプルで、温かい。
「10年後、事業者さん同士が集まった時に、『年商いくらでさ』という話ももちろん大事ですが、その前に**『今、地域のためにこんなことしててね』という会話が、当たり前に交わされるような未来**が来たら、最高に嬉しいですね。」
それは、経済合理性だけではない、新しい価値尺度が地域に根付いた証拠だ。この記事を読んでいる全国の地域事業者の方も、もしかしたら、すでに「シマバカ」の一員かもしれない。元岡さんは、そのヒントを3つ挙げてくれた。
●「この仕事、誰かのためになっているな」と、ふと気づく瞬間がある。 その「誰かのため」を深掘りし、言葉にできれば、あなたはもうシマバカの入り口に立っている。
●理由は分からないが、モノやサービスが売れなくなってきた。 それは、市場が価格や機能だけでなく、その裏側にあるストーリーや社会的な付加価値を求め始めているサインかもしれない。価値を見つめ直すチャンスだ。
●事業に「閉塞感」を抱えている。 行き詰まりを感じる時こそ、自社の価値を経済的側面だけでなく、社会的側面から見つめ直す絶好の機会だ。
もし一つでも当てはまると感じたなら、最初の一歩は何をすべきか。
「難しく考えず、まず誰かに話してみてほしいんです。私たちのような組織でも、地域のコミュニティ財団や地域商社、あるいは先輩のゼブラ組織でもいい。一人で抱え込まず、『試しに話してみるか』くらいの気軽さで、声をかけてみてください。」
さあ、一緒に「シマバカ」を始めよう
「シマバカ」というムーブメントは、まだ始まったばかりだ。トラストバンクという一企業だけでは、この大きなうねりを日本中に広げることはできない。元岡さんは、地域の金融機関や自治体、そして社内の仲間たちにも「持続可能なサポートシステムを一緒に作りましょう」と、熱く呼びかける。
「地域課題の解決には、時間がかかります。2年、3年と息の長い支援が必要です。お金の面でも、伴走という人の面でも、その仕組みを一緒に設計し、運営させていただけると、これほど心強いことはありません」
この連載を通じて、シマバカ室の具体的な事業内容や、全国で奮闘するシマバカな事業者たちの事例が、今後さらに詳しく語られていく。
最後に、元岡さんから読者へのメッセージで、この記事を締めくくりたい。
「この記事を読んで、『うちの取り組みって、もしかしてシマバカ…?』『一緒にシマバカな挑戦がしたい!』と感じてくださった地域事業者や連携先の皆さんがいらっしゃれば、ぜひお気軽にお問い合わせください。
さあ、一緒にシマバカしていきましょう!」
▶︎ お問い合わせはこちらから 株式会社トラストバンク お問い合わせフォーム (※リンク先は別タブで開きます)
元岡 悠太 (もとおか ゆうた)
東京都練馬区/福島県福島市 出身
IT企業に在籍後、NPO/県職員として地域や復興に関する業務に従事。
2017年 トラストバンクに参画し、GCF®のキュレーター・運営を担当。
2022年 地域の事業者への助成・伴走会陰を通じて地域課題解決を目指す新設部署「休眠預金活用/ソーシャルイノベーションデザイン室」を立ち上げ。
2025年 同室を「シマバカ室」に改称し運営中。