全国500自治体(26万アカウント)超が使う国内初のLGWAN対応(LGWAN-ASP)の自治体向けビジネスチャット「LoGoチャット」は、自治体の仕事をどう変えるのか?
LoGoチャットをこよなく愛する、取締役兼パブリテック事業部長の木澤真澄が『行政&情報システム』8月号(発行:行政情報システム研究所)に寄稿した記事を紹介します。
ビジネスチャットを活用すれば、年間5万248時間を生み出せる―。
埼玉県深谷市が4月、トラストバンクの自治体向けビジネスチャット「LoGoチャット」を使った実証実験で試算した効果だ。電話、メール、紙といった旧来の行政のコミュニケーション手段を「LoGoチャット」に置き換えると、職員1人あたり1日平均11分、年間44時間削減できることがわかった。全職員約1100人で年間5万時間に上り、人件費にすると2億円相当だ。
非効率なコミュニケーションを見直し、年間5万時間を住民のための付加価値の高い仕事に使えるならば、ビジネスチャットが自治体にもたらす効果は大きい。
自治体職員はともかく忙しい。
地域課題は人口減少や少子高齢化で多様化かつ複雑化している。しかし、地域課題解決の担い手となる自治体職員数は、総務省によると1994年をピークに2018年までの24年間で約55万人減少。職員一人あたりの業務量や範囲は大きくなった。
ふるさと納税総合サイト『ふるさとチョイス』で関わるふるさと納税担当職員が、3つも4つも兼務しているのは珍しくない。少ない人的資源で行政サービスを維持し、地域の持続可能性を守るためにも、自治体の働き方は変革を迫られている。
それでも、行政の仕事には「変えられないもの」と「変えられるもの」がある。
新型コロナウイルスや頻発する災害への対応、まちの活性化に向けた政策立案、住民との対話など「公務員」にしかできない分野は変えられない。
一方、紙やハンコの手続き、紙からデータを打ち込むだけの単純作業、大量の電話メモの処理といった非生産なコミュニケーションはデジタルで変えられる。
パブリテック事業は「変えられない大切なアナログを残すため、適切なデジタルを提供する」ことを軸にしている。その初のサービスが「LoGoチャット」だ。
現在、ビジネスチャットを活用する自治体は増加傾向にある。
トラストバンクが2019年11月に正式リリースした、総合行政ネットワーク(LGWAN)とインターネットで使える国内初の自治体向けビジネスチャット「LoGoチャット」は、518自治体、26万3600アカウントを突破している(9月16日時点)。
今年2月ごろから、新型コロナ禍のテレワーク推進で申し込みが急増し、4月の導入数は平常時(19年11月~ 20年1月)の月平均比9.5倍に上った(図)。最近では、デジタルを活用した新たな働き方を模索する自治体からの問い合わせが増えている。
市区町村のほか、都道府県単位も20自治体以上で利用。圏域で広がる地域もあり、長野県内では約半数の市町村が使う。システムの共同調達や広域協議会、公立病院などの導入例もある。
機能は民間のチャットツールとそん色ない。パソコンとモバイル端末用アプリがあり、庁内や他自治体の職員、外部事業者とトークできる。
民間ではスラックなどのビジネスチャットが広まる一方、自治体では本格普及していなかった。グループウェアの機能などツールがなかったわけではないが、電話やメールの代替にはなり得なかったのだ。
こうしたなか「LoGoチャット」の開発を後押ししたのは、複数自治体のさまざまな部署に何十回とヒアリングを重ねた結果、調整業務が多い自治体でコミュニケーションが共通課題にあることが浮き彫りになったからだ。
「LoGoチャット」の活用が広がっているのは、自治体がチャットを使う場合の課題や使い方にはまったことが大きい。
1つ目はLGWANとインターネットで使える点だ。
「LGWANで使えるチャットを探していた」という自治体の声は多い。LGWAN側で庁内のシステム環境で使えるのはもちろん、インターネット側でも庁外との連絡手段を確保することで、自治体の仕事に適した利便性を担保している。
2つ目はセキュリティ面だ。
機密性の高い情報を扱う自治体が安心して使えるようセキュリティ対策は強化した。
モバイルアプリは、自治体が認証した端末しか使えない。パスコード設定が必須のうえ、スマホをなくした場合でも管理者がすぐに利用停止でき、他人が容易に中身を見られないようにしている。
インターネット側からのアクセスはIPアドレスで制限したり、ファイルは閲覧権限のみにしたりするなど、情報漏えいや不正アクセス対策を徹底している。
特にモバイルアプリは人気で、ユーザー全体の約7割が登録する自治体もある。現場回りやテレワーク、災害対応など本庁と庁外のやり取りが多い自治体職員だからこそ、モバイルでコミュニケーションできる必要性を感じる。
ある自治体職員は「LoGoチャットが導入されて初めて、仕事でスマホを使う文化ができた」と話していた。
ビジネスチャットは時間や場所、心理的な壁を超える。
お互いのタイミングでメッセージを送れ、電話のように相手の時間を一方的に奪わない。上司が席にいなくても報連相(報告・連絡・相談)できる。物理的にも心理的にも距離があった他部署や他自治体の職員とも気軽につながれるのだ。
もちろん、行政だからこそ守ってきた業務慣習は大事だ。決裁者や他部署への報告は正式な形でするなど旧来の方法がよい場面もあるだろう。ビジネスチャットで電話やメール以外の選択肢を広げ、柔軟に使い分けることが重要だ。
そのうえで、自治体がビジネスチャットを使う意義は主に2つある。
1つ目は生産性の向上だ。電話やメールの応酬といったコミュニケーションの狭間で生まれるムダな時間を減らし、本来の仕事に集中する職場環境をつくれる。部署や全庁横断チームなど、対複数との情報共有の密度や意思決定のスピードも上がる。
トラストバンクが6月、LoGoチャットを使う自治体職員約1300人で調査したところ、1人あたり1日平均約25分、年間98時間の削減効果があることがわかった。紙資料のデジタル化などで、1人あたり年間約480枚のペーパーレスも期待できる。
2つ目は職員同士の連携の促進だ。行政のコミュニケーション手段にはなかったビジネスチャットの「気軽さ」が、職員や自治体間の共創関係を築く。
たとえば、ふとアイデアが思いついたとき。上司や他部署の人に電話やメールで相談するのは気が引け、手元に書き溜めてきた職員が多いのではないだろうか。とはいえ、100%の企画に仕上げてしまうと軌道修正が難しい。受け手側も労力がいる。
その点、チャットは敷居が低く、気軽に相談したり応じたりできる良さがある。3割のアイデアでも、意見交換しながら中身をブラッシュアップしていけばよいのだ。
ある自治体は「今までなら『そちらの部署の仕事でしょ』と突き返されていた案件も、チャットを使い始めて『一緒にやろう』に変わってきている」という。
さらに、全国の自治体職員がビジネスチャットで有機的につながり始めた。LoGoチャットには職員2400人以上が参加するユーザーグループがあり、70以上のテーマ別に情報交換できるトークルームがある。
新型コロナ禍では「パンデミック対応」「10万円給付対策」といったルームを立ち上げた。
たとえば「10万円給付対策」ルームでは、「給付の進捗状況は?」「申請内容に誤りがあった住民への最適な連絡方法は?」「専用窓口の体制や役割は?」などと疑問が随時投稿される。
すると、すぐに全国の自治体から回答やアドバイスが活発に飛び交う。ある自治体が給付申請データの印刷を効率化するExcelマクロを共有し、「おかげで業務がはかどりました」と感謝の言葉が次々と寄せられたことも。
離れた自治体同士がデジタル上で新型コロナ対策を助け合っているのだ。
全国共通の課題は、自治体が単独で知恵を絞るよりも他自治体と連携する方が有効だ。デジタル活用の知恵を共有し合うことで、自治体のICT力を高め合う相乗効果もあるだろう。
自治体同士の共創でコミュニティが成長しており、想像以上の盛り上がりを見せている。
今後、LoGoチャットに新たなチャットボット機能を追加していくことで、さまざまな紙業務を効率化し、紙文化の変革に挑戦する予定だ。
たとえば、現地調査をする土木課職員がチャットボットで必要項目を入力し、画像を添付すれば、現場から直接上司に調査報告書を送れるようになる。あとで紙に印刷して管理することも可能。庁舎を往復する時間ロスや手間もない。
自治体職員が何度も同じデータを打ち込んだり書いたりせずとも、電子上で正しいデータを保管できる仕組みを提供したい。
9月には、ファイルの無害化処理ができるチャットボット機能も提供を始めた。手間だったインターネットからLGWANへのファイルの無害化・データ移動処理がLoGoチャット上で簡単にできる。
LoGoチャットが目指すのは、当たり前のように自治体職員がデジタルを活用し、非効率な業務を減らして地域のための付加価値の高い仕事に専念できる世界だ。
全国約90万人の職員が1日10分でも電話対応しなくてよい時間が積み上がれば、年間3750万時間を地域のために還元できる。
チャット上で全国の自治体の知恵がコラボレーションすれば、社会全体がより良い方向に進むことにもつながるだろう。LoGoチャットは、この世界を実現するツールとして発展させていきたい。
まだ初めの一歩だが、その世界は見えてきている。
トラストバンク取締役 兼パブリテック事業部部長 木澤 真澄(きざわ ますみ)
大阪大学を卒業後、2003年、IBMビジネスコンサルティングサービス株式会社(現:日本IBM株式会社)に入社。システム開発や業務改革プロジェクトに従事した後、株式会社チェンジに入社。海外事業、自治体向け事業開発担当を経て、株式会社トラストバンクに出向。2018年12月より現職。
※ 本記事は『行政&情報システム』8月号(発行:一般社団法人行政情報システム研究所)に寄稿した内容を一部加筆・修正したものです。