2025.09.22

ふるさと納税の「その先」へ【前編】トラストバンクはなぜ、自らが築いた成功の先に「変革」を求めるのか。

ふるさと納税の「その先」へ【前編】トラストバンクはなぜ、自らが築いた成功の先に「変革」を求めるのか。

2023年度、市場規模はついに1兆円を突破し、2024年度の寄付額は約1.27兆円で、5年連続過去最高を更新した「ふるさと納税」。地域に想いを届け、魅力的な返礼品を受け取るこの仕組みは、日本社会にすっかり定着した。その黎明期から制度を牽引し、国内最大級のプラットフォームとして走り続けてきたのが、私たちトラストバンクが運営する「ふるさとチョイス」である。
トップランナーとして走り続けること。それは、現状維持を是とすることと同義ではない。むしろ、誰よりも早く、自らが築いた成功モデルの光と、その先に伸びる影の両面を見つめてきたからこそ、私たちは今、大きな変革の舵を切ろうとしている。
ふるさと納税ポータルサイトから、「地域価値共創プラットフォーム」へ。
7月その狼煙(のろし)として発表されたのが、自治体とスタートアップの協業を支援する「地域共創マッチングプロジェクト」だ。なぜ、私たちは今、あえて「ふるさと納税を超える」必要があるのか。その問いの先に、トラストバンクが描く未来、そして地域との新しい関係性がある。プロジェクトを牽引する森田さんに、変革の原点にある思想を聞いた。

森田 裕士(もりた ひろし)

福井県鯖江市出身
岐阜大学教育学部にて歴史学を専攻
卒業後、新卒でNTTドコモに入社し、販売コンサルティングや料金プラン策定業務に従事(11年勤務)
その傍ら、個人として地域リブランディング活動を展開
2020年にトラストバンクに自治体コンサル部門のマネージャーとして着任後、店舗立ち上げやリアルコミュニケーション企画を担当
2024年よりチャネルビジネス部 部長として、パートナーとの価値共創全般を統括

進化の先に見た、私たちの変わらぬ使命。


「ふるさとチョイス」の歴史は、ふるさと納税の歴史そのものと言えるかもしれない。「自立した持続可能な地域をつくる」というビジョンのもと、私たちはこの制度が秘める力を信じ、全力で走り続けてきた。
ふるさと納税市場が拡大し、仕組みが洗練されていくその過程で、森田さんの中に、次なるステップへ向かうための想いが芽生え始めた。
「事業の成長を示す寄付額も、もちろん大切な指標です。しかし私たちは、その先にある本質的な価値を見つめ続ける必要があります。ふるさと納税は、地域の未来を創造するための『手段』であるという原点です。地域の方々と語り合う中で、その想いは揺るぎないものになりました。」
地域が真に解決したい課題、そして、住民の方々が心から実現したい未来。その声にどこまでも寄り添い、共に未来を創造していくこと。それこそが、私たちの変わらぬ使命であると。

「シンプルに言うと、彼らがやりたいこと、そして我々がサポートできることは、ふるさと納税だけじゃないよな、と。この手段だけを活用する前提になると、どうしても越えられないハードルや、時間がかかりすぎるという現実がある。私たちが『持続可能な地域』を標榜しながら、自分たちの思考がふるさと納税という枠に縛られていては、本末転倒ではないか。そのジレンマが、新しい一歩を踏み出す原動力になりました」
それは、自らが作り上げた成功体験への「依存」からの脱却宣言でもあった。ふるさと納税という強力な基盤を持つからこそ、その基盤だけでは到達できない場所があることに気づいてしまったのだ。

■ 「ふるさと納税だけでは、救えない」。地域から聞こえてきた声


転換点となったのは、昨年から試験的に始まった「アクセラレータープログラム」(現・地域共創マッチングプロジェクト)での経験だ。スタートアップ企業と連携し、ふるさと納税という枠組みを一旦脇に置いて、地域の課題解決に挑む。その中で、森田さんたちは自社の立ち位置を、全く新しい視点から見つめ直すことになる。
「スタートアップの方々や自治体の方々と、膝詰めで対話する。彼らの視点に立って物事を考えると、痛感するんです。『彼らの目的を叶える手段は、別にふるさとチョイスじゃなくてもいいのか』と。もちろん、我々のプラットフォームに引き込むという発想も大事です。しかし、一度**『あちら側』の視点に立つ**と、進むべき方向が無限に広がっていく感覚があった。この視点の転換こそ、今回のプロジェクトがもたらした最大の発見かもしれません」
自分たちのプラットフォームを「主語」にするのではなく、地域の課題を「主語」にする。すると、これまで見えていなかったソリューションの可能性が浮かび上がってくる。
ふるさと納税は、地域にとって間違いなく強力なツールだ。しかし、それは万能薬ではない。制度のルール、返礼品の基準、様々な制約の中で、こぼれ落ちていく地域の課題やポテンシャルが間違いなくある。
「地域の奥深くまで入り込めば入り込むほど、ふるさと納税というフィルターを通さない、生の課題や熱意に触れる機会が増えます。それらを前にした時、我々が提供できる価値は本当に寄付集めだけなのだろうか、と自問自答せざるを得なかった」
この問いこそが、「地域価値共創プラットフォーム」という新たなステージへと繋がる、重要なマイルストーンだったのである。

■ 行動こそが、思考を変える唯一の道


「ふるさと納税は、私たちのビジョンを達成するための手段の一つ」。この言葉が、単なるスローガンから、血の通った実感へと変わったのも、このプロジェクトを通じてだった。
「面白いもので、ふるさと納税以外の文脈で地域やスタートアップと話をしていると、逆説的にふるさと納税の価値が再認識できるんです。彼らと新しい価値を共創した先に、その価値を最大化するための出口戦略として、ふるさと納税という手段が、かつてないほど有効に思えてくる。バックボーンにこれだけ強力な制度があるからこそ、我々は安心して新しい挑戦ができる。思考が柔軟になっていくのを感じます」
行動が、認識を変える。認識が、新たな行動を促す。この好循環を生み出すことこそ、変革の本質だ。
トラストバンクは、なぜ変わるのか。それは、誰よりも地域と向き合い、ふるさと納税の可能性を信じ抜いてきたからに他ならない。そして、信じ抜いてきたからこそ、その限界をも知り、その「先」にある、まだ見ぬ可能性に手を伸ばさずにはいられないのだ。
単なるポータルサイトから、地域に眠る価値を共に掘り起こし、未来を創造するパートナーへ。地域価値共創プラットフォームを目指す壮大な挑戦は、まだ始まったばかり。


(後編へ続く)

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