前編では、一人の挑戦者が「chiica」という未知の事業と出会い、その本質的な価値に目覚めていくまでの軌跡を追った。後編では、彼女が確信する「chiica」ならではの競争優位性、そして自らのキャリアを見据えた、壮大かつ具体的な未来へのビジョンを紐解いていく。その言葉から見えてきたのは、単なる営業担当者の視点を遥かに超えた、事業家としての気概と覚悟だった。
「全庁活用が生む“相乗”効果」- 他社にはない、chiicaだけの価値
「地域通貨と一言で言っても、本当に様々です。商店街だけで使えるポイントも、イベント参加でもらえるコミュニティポイントも、すべて地域通貨。では、その中で『chiica』の圧倒的な強みは何か。それは、費用対効果ならぬ、『費用対“相乗”効果』が見込めることです。」
彼女が自信を持って語る「chiica」の核心。それは、特定の部署や事業に限定されない「全庁的な活用」を前提とした、その懐の深いシステム設計にある。
「例えば、他社サービスでは部署ごとにアカウントを作成したり、ポイントプログラムを追加したりする度に追加費用が発生することがあります。しかし『chiica』は、原則として追加費用をいただくことなく、庁内のあらゆる事業で活用していただくことを全面的に推奨しています。」
この思想こそが、決定的な違いを生む。子育て支援課、健康増進課、環境課、税務課…。一つの事業だけで費用対効果を測るのではない。「chiica」は、庁舎の壁を越えて様々な施策と連携させることで、一つひとつの事業が有機的に繋がり、地域全体として大きな相乗効果を生み出していくプラットフォームなのだ。
「健康診断を受けたらポイント、ボランティアに参加したらポイント。私がざっとリストアップしただけでも、自治体で活用できる施策事例は35もありました。この中で、貴庁でも活用できるものが必ずあります。活用することで、業務効率化や住民満足度の向上につなげましょう、というお話ができるんです。」
さらに、その効果を具体的なデータで示せることも、トラストバンクならではの強みだ。
「『免許を返納したらchiicaポイントを付与します』という施策で、返納率が前年比で5倍になった自治体さんがあります。また、税金などの口座振替を申し込んだ方にポイントを付与したところ、振込件数が当初の3倍になった事例も。こうした効果分析の結果を、実際のデータとして次の自治体さんにご提示できる。これは他社には絶対に真似のできない、私たちの財産です。」
多くの社員が抱く「商店街でお金が回る仕組み」というイメージを、彼女は鮮やかに覆していく。庁内全体を巻き込み、住民の行動を変え、職員の業務効率化につなげ、地域全体の活力を生み出すDX推進ツール。それこそが、彼女が伝えたい「chiica」の真の姿なのだ。
「点が線になる」- 学びを力に変える、キャリアの転換点
「トラストバンクに来る前の私は、どちらかというと『学ぶ』ことを中心に仕事に取り組んでいたように思います。」
しかし、環境は人を変え、成長を促す。ここでは、学んできた知識や経験を、ただ自分の中に蓄えるだけでは終わらない。
「今は、学んだことを自分の中で体系化し、形にして、組織に還元していく。そういう働き方に、確実に変わってきています。これまで点として存在していた知識が、繋がって線になる。営業の経験、企画の経験、データ分析、自分で取り組んできた資格の勉強、それら全てが、今の仕事の中で有機的に結びつき、生きている実感があります。」
自分がチームを引っ張っていかなければならないという自覚が、その変化を後押ししている。学びを深めながら、それをチームの力に変えていく。この好循環の中で、彼女自身がリーダーとして大きく飛躍を遂げている真っ最中なのだ。その成長を支えているのが、上司である、統括部長の存在だ。
「私、結構“ガツガツ系女子”なので」と笑う彼女。「チーム内の雰囲気としても、そんな私の積極的な意見出しや新たなチャレンジを歓迎し、主体的な行動を促す組織風土がある。統括部長は、営業から開発まで見渡す幅広い知見で、戦略や戦術をたて、実行されており、心から尊敬しかありません。」最高の環境で、彼女は自らの翼を大きく広げようとしている。
未来への挑戦状 -「営業のトップ、では終わらない」
彼女が見据える未来は、現在のポジションに留まらない。
「将来的には、複数市町が共同で利用できるような、越境的な地域通貨の導入支援にも挑戦したい。そして、営業活動だけを続けていても、いつか限界が来る。だからこそ私は、カスタマーサクセスや開発の分野にもっと積極的に関わり、自分自身の影響範囲を広げていきたいんです。」
その視線は、既存顧客への価値提供の最大化、そしてそこからの新たな収益創出へと向いている。そして彼女の口から飛び出した次の言葉は、インタビューの場にいた全員の心を射抜いた。
「これは上司にも伝えているんですが…ゆくゆくは統括部長になります!」
営業のトップではない。事業全体を俯瞰し、営業、開発、カスタマーサクセスの間に立って連携を促し、事業そのものを力強くドライブさせていく存在へ。その明確で揺るぎない目標設定に、彼女の並外れた野心と覚悟が表れていた。
最後に、これから仲間になるかもしれない未来の後輩たちに「chiica」をどう伝えるか、という問いに対し、彼女はこう答えた。
「これは、単なるキャッシュレス決済の仕事じゃない。事業者も、住民も、そして自治体も支援し、地域全体を繋いでいく仕事。そして何より、決まった形のない、発展途上のサービスと組織だからこそ、自分たちの手で新しい価値を創造していける**『地域を繋げる最前線』**の仕事なんだ、と伝えたいですね。」
インタビューの終わり、インタビュアーが「なんだか、すごく元気をもらいました」と漏らしたほど、彼女の言葉は熱を帯び、聞く者の心を揺さぶった。30代半ばを迎え、知識と経験が繋がり、まさにキャリアの円熟期へと向かう彼女。その情熱と挑戦が、「chiica」を、そしてトラストバンクを、新たなステージへと導いていくことは間違いない。彼女の「創造の最前線」での戦いは、まだ始まったばかり。
前田 明咲(まえだ あき)
長崎県佐世保市出身。
中村学園大学卒業後、アパレル会社の店頭接客、人材・広告企業での不動産広告ポータルサイト営業、大学職員としての大学経営・企画など、多岐にわたる職務を経験。
2024年、これまでの多角的な知見を活かして自治体のDX推進に貢献したいと、株式会社ガバメイツに入社。自治体向けのDX・BPRコンサルティング営業に従事した後、2025年3月より株式会社トラストバンクへ出向。
現在は地域通貨chiicaの新規営業として、地方自治体の課題解決に取り組んでいる