2020.10.29

ふるさと納税で『未来へツナグ』=ふるさとチョイスアワード2020をオンライン開催

「ふるさとチョイスアワード2020」授賞式

 10月6日、東京・渋谷ストリームで「ふるさとチョイスアワード2020」を開催しました。ふるさと納税の裏側で起きている地域の変化や、奮闘する自治体職員、事業者の取り組みにスポットライトを当てた表彰イベントです。

 7年目となる今年のテーマは『未来へツナグ』。

 審査員は、トラストバンク会長兼ファウンダーの須永珠代、代表取締役の川村憲一のほか、まち再生事業家の木下斉さん、ホルグ代表取締役の加藤年紀さん、WHERE代表取締役の平林和樹さんが務めました。
 
 イベントを企画したのは、昨年度まで北海道夕張市職員だったトラストバンク寄付文化デザイン部の佐近渉です。冒頭、イベントに込めた想いを語りました。

あいさつするイベント企画責任者のトラストバンク佐近航

佐近
 「出身は北海道内で最も人口が少ない音威子府村です。また、前職は全国で最も財政が厳しいとされる夕張市役所でした。自分の経験を踏まえても、地方は非常に大きな課題を抱えています。コロナ禍でその状況は一層厳しくなっています」

 「そんな今だからこそ、人のつながりや地域のつながり、地域の未来をつなごうとする自治体職員や事業者の想い、取り組みが必要だと考え、『未来へツナグ』をテーマにしました」

 今年の応募総数は計71件(46自治体)。

 全国約620名の自治体職員による投票で最終ノミネートされた13件(12自治体)から、ベストインベストメント賞▽チョイス自治体職員大賞▽チョイス自治体職員大賞(U30新人賞)▽チョイス事業者大賞の部門大賞に選ばれた事例を紹介します。

ベストインベストメント賞
鹿児島県錦江町「ふるさと納税で創る、小さな町の希望溢れる未来」

緊張しながらもしっかりとお話しする錦江町金川さん

|子供たちの支援をしたい。でも…

 金川美穂さんは、錦江町役場で保健師として働いています。

 錦江町は、ふるさと納税を未来の担い手である子供たちのために使うことを条例化しました。そこで、町内の人たちと協力し「まち・ひと・『MIRAI』創生協議会」を立ち上げ、「『未来』想像・創造コンテスト」を実施しました。自らふるさと納税の使い道を考える政策提言コンテストです。

 寄せられた107件のアイデアに、とあるお母さんからの意見がありました。

 「町に小児科がないのが心配です。せめて、遠隔で相談できる仕組みでもあれば安心なんだけど…」

 “MIRAI”を担う子供たちを育てるにあたり、それは深刻な問題でした。

|医者がいないなら、オンラインだ!

 そこで、金川さんらが導入したのが「小児科オンライン」です。協力してくれる町外の医者を探し、LINEで気軽に、無料で相談できる環境を整えました。現在は、小児科だけでなく、産婦人科も加わっています。

 審査員のまち再生事業家・木下斉さんは「地元に人を連れてくるだけではなく、外の協力者を招き、町民に対してリモートの医療体制を作る。これは、日本全国で必要だといわれながら、なかなか形にすることが難しい。そこにふるさと納税を活用し、地元の人と連携して取り組んだことが素晴らしいです」と評価しました。

 錦江町の取り組みについて他の自治体から問い合わせも来ているそうで、金川さんは「私たちのモデルが、少しでも他の自治体の参考になれば」と話します。
 
 現在も、MIRAIプロジェクトは『MIRAI寺子屋塾』や『児童公園プロジェクト』などが進められています。

 「私たちは、子や孫に希望溢れる未来をつなぐため、なりたいものや、やりたいことがある子どもたちが夢にチャレンジできる町――そして、彼らを本気で応援できる町になりたいと思っています」

 未来への投資として、安心して子育てできる環境を。同じ悩みを抱える地域に、現代社会ならではの課題解決策の一例を示すことができました。

| 想いをきちんと伝えられた。この賞が証拠

金川さん受賞コメント
 「トップバッターで緊張しましたが、みなさんに錦江町の取り組み、想いをきちんとお伝えできました。この賞が証拠だと思っております。

 錦江町の行政だけではなく、町民だけでもなく、錦江町を支援してくれる方々の想いをプレゼンテーションに乗せて発表しました。改めて、支援してくださる皆さんにお礼を申し上げます」

チョイス自治体職員大賞
福井県坂井市・小玉悠太郎さん「『寄付金を預かる』という担当者としての使命」

ふるさとチョイスアワードの舞台は2回目。熱く語る小玉さん

|豪雪に見舞われ、気づいた“想い”

 熱い想いで取り組む自治体職員に贈られる大賞。受賞した福井県坂井市の小玉悠太郎さんは、ふるさと納税への一つ一つの想いについて語りました。

 小玉さんがその“想い”に一層向き合うようになったのは、2018年。坂井市は記録的な豪雪に見舞われました。積雪は37年ぶりに130センチを超え、1500台の車が2日間立ち往生。ライフラインが絶たれ、孤立する地域も出てきました。

 そんなとき、ふるさと納税で支援が届きます。

 「大好きな故郷のために、わずかですが応援させてください」。
 
 寄付者からの数々のメッセージを見て、小玉さんは知るのです。ふるさと納税というのは、一つ一つに支援者からの想いがある。その一つ一つの想いを大切にしなければならない、と。

|日本一詳しい? 寄付金の使い道

 坂井市には、ふるさと納税の使い道を市民が決める「寄付市民参画制度」があります。市民から使い道のアイデアを募るだけではなく、市民が決定にまで携われるのです。さらに、いざ使い道が決まると、進捗状況がこと細かに公開されます。日本一詳しいのではないか?と思うほどです。

 しかし、2015年まではせっかく集めたふるさと納税もあまり活用できていませんでした。

 「なんとか市民の声を一つでも多く実現したい」。

 小玉さんは、若手メンバーでプロジェクトチームを立ち上げ、事業規模拡大を目指します。

 その結果、年間300万円ほどしか使われていなかった寄付金は、今では1億円規模になりました。坂井市出身者への奨学金返還支援事業を利用し、Uターン就職する若者もいました。

 小玉さんにとって、年々増える坂井市への寄付金は、ありがたいと同時にプレッシャーにもなるそう。一つ一つに想いが乗っていることを実感しているからです。

 「寄付者の一つ一つの想いに、私は応えることができているのか?ときに自問自答することもあります。全国のふるさと納税担当者が、寄付金一つ一つと真摯に向き合うことで、ふるさと納税制度はもっともっと良くなると思います」

 発表後、審査員のトラストバンク代表取締役川村が「取り組みをこの先も続けていくには、どんなことがあればよいと考えますか」と質問しました。

 小玉さんは「わたしも、他の自治体職員とのつながりで想いを教えてもらいました。ただ、自治体職員は3年ほどで担当が代わってしまうため、いなくなる前にバトンを渡す必要があります。同じ想いをもつ職員は自然と集まってくるので、そこで想いを共有して未来につないでいく。そんな全国の自治体職員のネットワークをつないでいきたいです」と語りました。

 「ふるさと納税で、日本のミライを創る。それが担当者としての使命です」

 その使命を胸に、今日も小玉さんは奮闘します。

|ふるさと納税の仕事が楽しくて仕方ない

小玉さん受賞コメント
 「わたしは、ふるさと納税という制度が大好きです。入庁して8年目になりますが、ふるさと納税の仕事をする前は、仕事って楽しくないな。まあ、楽しむものでもないなと思っていました。

 でも今は、仕事が楽しくて仕方がないです。ふるさと納税は、そんな素敵な魅力がある制度です。この制度をもっとよくしていきたいという気持ちで一所懸命走ってきました。今後も、全国のふるさと納税担当者とよりよい制度をつくっていけるよう頑張ります」

チョイス自治体職員大賞(U30新人賞)
北海道北広島市・白水美里さん「直売所でつながった想いを魅力発信の新たな一歩に」

素敵な笑顔とともに発表する白水さん

|北広島には何がある?

 「よくカープファンですか?と聞かれますが、私は日ハムファンです!」

 白水美里さんの勤める北広島市は、札幌市から電車で15分ほどに位置する町。白水さんは友人に「北広島って何もなくない?」と言われた際、言い返すことができずにいました。

 「今年の4月、ふるさと納税の担当になって見える世界が一気に変わりました」

 先輩に連れられお礼の品を作っている生産者を回ったところ、これまで気付かなかった北広島の特産品に出会ったのです。生産量が特化している産物はありませんが、お米やジンギスカン、有機野菜など、一口食べただけで、美味しいと感じるものばかりでした。

 「このとき感動したのは、美味しかったからだけではありません。生産者の方たちが、作っているものに対して誇りやこだわりを持っているのはもちろん、お礼の品を通して町の未来のことも考えて動いている方たちだったのです」

 何もないなんてことは、決してなかったのです。

|商品だけでなく、裏側も伝えたい

 そんな北広島市には、今年6月に「ナチュラルファーム楽園倶楽部」ができました。

 オーナーの斎藤さんは、農薬と化学肥料を使わずに育てたとびきり美味しい有機野菜を販売しています。ここを北広島のいいものを発信する場所にするんだと決め、自身の野菜だけではなく、他の生産者の作った野菜、ジュース、お肉なども置いたり、コラボレーションをしたりと、新しい取り組みをする場になりました。

 「伝わらないまま『何もない』と思われるのはもったいない。これだけ想いをもってやっている生産者がいるんだから、美味しいものがあるのだから、もっと外向きに発信して伝えれば、町のファンも生産者さんのファンも増えるはずだと思いました」

 「やらねば!」

 生産者に感化された白水さんは、SNSやふるさとチョイスのブログなどを活用し、お礼の品の魅力を発信し始めました。

 「最初は商品にスポットライトを当てたものが多かったです。でも、だんだん生産者さんのこだわりや想いを伝えるようになりました」

 生産者はあまり表には出たくないのかと思っていましたが、一所懸命な白水さんを見てか、生産者さんから「この商品はこんな写真を使ってほしいんだ」などと一緒になって盛り上げる意識をもって動いてくれるようになりました。

 「○○さんの何だから買いたい、と思わせられるような発信をしていきたいです」

 地域の魅力を試行錯誤しながら発信する白水さん。

 審査員のWHERE代表取締役の平林和樹さんは「こういった純粋な想いから、一つ一つ行動を起こしていくことが、ゆくゆくは大きな変化につながっていくのだろうなと思います」と話しました。

|この賞は“頑張れよ!”という意味

白水さん受賞コメント
 「まだ大きな成果を出せていないなかですが、この賞をいただけたのはきっと“頑張れよ!”という意味なんだろうなと思います。これからも、北広島の美味しいものや生産者さんの想いなど、色々な挑戦をしながら発信していきます。ぜひ、みなさん見守っていただき、そしてご寄付いただけるとうれしいです」

チョイス事業者大賞
鹿児島県長島町 島のごちそう「故郷・獅子島を元気にしたい!百年漁師のものがたり」

いつもの漁師の装いで発表する山下さん

|自分の島がなくなる?

 山下城さんは、鹿児島県長島町にある島民690人の獅子島の出身です。漁師の4代目でしたが、昨春まで東京の大手精密化学メーカーに勤務。中国への海外赴任も経験し、営業スキルを磨く日々でした。

 しかし、あるとき獅子島に帰省した際、衰退していく島の様子を目の当たりにします。少子高齢化や、それに伴う漁業従事者の減少。かつての活気はありませんでした。

 「このままでは、自分の故郷がなくなってしまうかもしれない」 

 危機感を覚えた山下さんは、Uターンを決意。山下さんのお父さんが立ち上げた水産加工品の製造・販売事業を本格化し、さらにツーリズム事業を加えた「島のごちそう」で故郷を盛り上げることにしました。

|昔から存在する魅力を生かして

 島に帰って半年後、長島町から「ふるさと納税に参加しませんか」と声がかかりました。しかし山下さんは、すぐに返事ができません。

 「私一人がふるさと納税に出品しても、島の活性化にはなかなかつながらないのではないか。島の人たちと参加するにしても、まだその段階ではないと感じていました」

 まずは島の一人一人が、保守的な考えを打ち捨て、当事者意識を持つように変わらなければならないと感じたのです。

 そこで始めた取り組みの一つが「島っ子たちの写真展」。島の子供たちが、自慢できる島のシーンを撮った写真を展示することで、客観的に島の良さを自覚するという狙いでした。

 さらに、ツーリズム事業として漁業体験を始めます。すると、島外から観光客が訪れるだけでなく、漁業に親しみのない人がどんなところに興味を抱くのか、何を面白いと思うのかがわかるようになりました。

 こうした取り組みのかたわら、ふるさと納税に出品するお礼の品の準備もしました。

 「獅子島で獲れた真鯛を使った魚味噌、あおさのりやひじきを使った佃煮です。新しい商品をゼロから作るのではなく、島で昔から食べられてきた味や製法を残しながら製品化を進めてきました」

 山下さんが家業を継ぐと決意したころ、島はどこか“自治体頼み”のような空気があったといいます。今では、テレビなどを通した反響も受け、地域の事業者が商品開発などに対し積極的に意見するようになりました。山下さんの活力が、周りの人たちにも伝播しているのです。

 「島だからこそ、一つにまとまったときのエネルギーや、今後の可能性を強く感じました。ただ、島の人たちと取り組みや情報をつなぎ、マインドにしっかり落とし込んでいく役割の存在が必要だと気づきました。わたしが、今後もその役割を担っていきたいと思います」

 誰かの故郷を、未来へツナグために。お礼の品が、その後押しとなっています。

|さらにモチベーションを上げていきたい

山下さん受賞コメント
 「プレゼンテーションをしながら、想いばかり走ってしまい、伝わりづらいところもあったかと思います。ですが、その想いに共感していただけたことがとてもうれしいです。今日の結果を島の仲間たちに共有し、さらにモチベーションを上げていきたいと思います」

一人ではなく、みんながつながるふるさと納税

 寄付金が注目されがちなふるさと納税。
 ふるさとチョイスだけでも、裏側にある地域の変化や、頑張っている自治体職員、事業者にフォーカスをあてたい。そして、メディアにも知ってほしい。
 
 そんな想いで2014年に「ふるさとチョイスアワード」がスタートしました。

 今年は、ベストインベストメント賞を新設しました。
 ふるさと納税で集めた寄付金は、自治体が自主的に使うことができます。だからこそ、自治体は試行錯誤し、確かな目標や持続可能な地域の未来のために寄付金を“投資”することが大事です。

 トラストバンク会長兼ファウンダーの須永は、イベントの統括でこう語りました。

総括を話すトラストバンク会長兼ファウンダーの須永珠代

須永
 「ふるさとチョイスアワードを開始した2014年から、ふるさと納税制度は、寄付額にどうしてもフォーカスがあたってしまうことを危惧していました。今回の発表事例のように、人と人とのつながり、地域の事業者と自治体職員のつながり、寄付者とのつながり、ふるさと納税によるすべてのつながりが未来に向けて前に進んでいく姿をみて、アワードをやりたいと思いました。

 ふるさとチョイスだけでも、ふるさと納税の裏側で起きている地域の変化や、頑張っている職員・事業者に光を当て、知ってもらいたいとの想いで取り組んでいます。

 今年のテーマが『未来へツナグ』。ふるさと納税は人と人とのつながりが未来を創っていく、そのきっかけの一つでしかありません。地域には色んな課題が多いですが、独りではなくみんながつながっていけば未来を創っていくことができるのではないかと思います。

 今年は初めて『ベストインベストメント賞』を設けました。ふるさと納税という自主財源をどこに投資するかが一番重要だと考えています。アワードでその一歩を進められたのではないかと嬉しく感じます」

 イベント当日は、大賞に選ばれた4自治体のほか、8自治体(9事例)が発表しました。どの地域のストーリーにも共通しているものは、地域への想いです。

 新型コロナウイルスという未曽有の事態に、多くの人が疲弊しています。ですが、そんなときこそつながりを大事に。自治体、事業者、寄付者がふるさと納税でつながれば、地域の課題解決が一歩でも前進し、地域の未来へつないでいくことを期待できるのではないでしょうか。

<関連ページ>
国内最大級のふるさと納税大賞「ふるさとチョイスアワード2020」の最高賞が決定(2020/10/05)
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